一般社団法人 九州地域づくり協会
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第9回 時代を超えた石造アーチ橋の精華 甲突川の五石橋

九州新幹線の全線開業により、全国から熱い視線が注がれる鹿児島。    
近代日本の誕生に関わる多彩な史跡が、市内には数多く残されている。  
江戸末期に築造され、見事な石橋群として知られた「甲突川の五石橋」は、
そのうち三橋が移築・保存され、当時の土木技術の高さを今に伝えている。

 

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 鹿児島市街を北西から南東へ流れ、錦江湾に注ぐ甲突川は、江戸の昔から度々、氾濫を繰り返す“暴れ川”であった。そこで、天保9年(1838)の洪水を機に大規模な河川改修が行われ、4つの木橋が5つの石橋に架け替えられた。いずれも堅牢優美なアーチ橋であったことから、わが国を代表する石橋群「甲突川の五石橋」として、人々の記憶に深く刻まれていく。
 当時の薩摩藩では財政改革の成功により、領国や城下の整備を進めており、肥後から名石工の誉れ高い岩永三五郎を招き、石橋架橋をはじめ、河川や海岸の整備など多彩な土木工事に当たらせた。この三五郎は「性質淡薄寡欲誠に良工」「水利を視、損失を考え、大数を測るに敏なる」人物だが、「筆算に拙き者」と古文書に残されている。つまり、算術は苦手だが、水利を見る大局観に優れていたようである。

 


卓越した橋梁技術の結晶

9-4 弘化2年(1845)から嘉永2年(1849)にかけて、三五郎が甲突川に架橋した石橋は、上流から玉江橋、新上橋、西田橋、高麗橋、武之橋である。以来150有余年に渡って現役として活躍したが、平成5年8月に市街を襲った洪水によって新上橋と武之橋が流失。その後の河川改修に合わせ、残る三橋が「石橋記念公園」に移築・保存されたのである。
 薩摩街道の道筋に架けられ、参勤交代の行列が往来したという西田橋は、橋長49.5m、橋幅6.2m。城下町の玄関口にあり、薩摩藩の威信を顕示したという。木橋の時代から受け継がれた青銅製擬宝珠、精緻な丸柱を配した高欄、復元された西田橋御門など、優美な意匠と堂々とした橋梁構造が調和する姿は必見。三五郎の代表作といわれる名橋である。さらに、上流側の水切石が垂直に近い勾配で立上る高麗橋(橋長54.9m、橋幅5.4m)、実用本位の質素な造りを見せる玉江橋(橋長50.7m、橋幅4.0m)にも、当時の架橋技術の高さがしのばれる。
 九州新幹線が発着する鹿児島中央駅の一駅先、鹿児島駅の海寄りに整備された園内には、五石橋の歴史と技術を伝える記念館も併設。すぐ北側の多賀山公園には、日露戦争の英雄・東郷平八郎像が建ち、訪れる人が今も絶えないという。

 


郷土発展を支えた人々の思い

9-3 甲突川の下流に架かる「天保山橋」は、平成10年に架け替えられたコンクリート橋。その石灯籠型の親柱や和風の欄干には、昭和10年の築造当時のものが使用されている。また、いおワールドかごしま水族館のある埋立地の北西側には、明治38年(1905)に築造された「鹿児島港(旧)第一防波堤」が現存している。さらに、市街中心から南へ。国道225号の卸本町交差点から山手に向うと慈眼寺公園がある。一帯は飛鳥時代に創建されたとされる慈眼寺の跡。緑濃い渓流に架かる遊仙橋、洗心橋、稲荷橋、澄心橋は、いずれも苔むした素朴な石橋群である。こうした数々の土木遺産を目の前にすると、郷土の発展に尽力した人々の情熱と誠意が、時代を超えて熱く胸に迫ってくる。

 


この国の礎を築いた時代へ

9-6 明治維新の原動力となり、日本の近代化に大きく貢献した薩摩藩。その事績は市内各所に散見される。鹿児島中央駅の正面に建つのは“若き薩摩の群像”。維新前に英国へ留学した17藩士の勇姿が若々しい。ここから北東へ。甲突川に架かる高見橋の左岸には大久保利通像が建つ。そこから下流の川辺には“維新ふるさとの道”が続いている。市街中心にあった鹿児島城、別名は鶴丸城。その城跡周辺は史跡の宝庫といえる。名君と賞賛された島津斉彬を祀る照国神社の境内には斉彬、久光、忠義の三像が建つ。神社の入口近くには軍服姿の西郷隆盛像が桜島を見据え、背後には隆盛終焉の地・城山の豊かな緑が広がっている。
 市街の北寄り、磯地区にも見所が多い。久光の別邸である名勝・仙巌園は、桜島を築山に、錦江湾を池に見立てた雄大な景観が広がる。隣接する尚古集成館は、斉彬が築いた近代工場群の跡地に建つ博物館である。また、忠義が日本初の洋式紡績所の造営に際して、外国人技師の宿舎として建築させたのが旧鹿児島紡績所技師館。通称・異人館と呼ばれる木造のモダンな洋館であり、尚古集成館とともに国の重要文化財に指定されている。この国の歩みがここにある、と感じられる旅へ、いざ! 9-5

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