FUKUOKA 15
南河内橋
福岡県北九州市八幡東区河内
旧八幡製鐵所設計施工
近代製鉄業発展のシンボル
日本で唯一現存する
レンティキュラートラス構造
南河内橋は、板櫃川上流に建設された官営八幡製鐵所の工業用水確保のために建設された河内堰堤の貯水池に架かる鋼トラス橋です。大正8 年(1919)から昭和2 年(1927)にかけて八幡製鐵所によって建設され、設計は製鉄所技師の沼田尚徳と足立元二郎の指導監督のもと、製鉄所技手の西島三郎により行われました。
この橋は国内で唯一現存するレンティキュラートラス構造で、その歴史は古く、イギリス、ドイツで19 世紀に鉄道橋として盛んに架けられ、その後アメリカで道路橋に用いられた構造です。レンティキュラートラスとは、レンズ型のトラスを意味し、上向きの弧を描く鋼材と下向きの弧を描く鋼材とが組合わさり、真横から見ると凸レンズの形をしていることからその名があります。
鉄都ピッツバーグを訪れて得た
象徴となる橋の発想
沼田は河内貯水池の着工にともなって、大正4 年(1915)から翌年にかけての約9ヶ月間、英米に視察に訪れ、アメリカのでレンティキュラートラス構造のスミスフィールド・ストリート橋を見て着想を得たといわれています。
南河内橋は2スパンが繋がり、その形状から「めがね橋」ともいわれ、周囲の山々の稜線や湖面とも見事に調和した優雅な赤い曲線。湖面に映る姿は、鉄鋼の国産化に向けた近代製鉄業発展を象徴するシンボルとなっています。
橋門の意匠にもモダンなデザインがほどこされていますが、設計した堰堤や橋を見た会計検査院の役人がコストを指摘した際、沼田はひるむことなく反論したといい、「土木は悠久の記念碑」というヨーロッパの土木哲学のもと、新しい技術と美意識をもって、土木構造物の設計にあたっていた逸話として語り継がれています。
DATA
所在地/福岡県北九州市八幡東区河内
河内貯水地に架かる
完成年/昭和 2 年(1927)
設計者・施工者/沼田 尚徳(官営八幡製鐵所)
管理者/北九州市
文化財指定等/国指定重要文化財 土木学会選奨土木遺産
<施設の形式・諸元>
鋼レンズ形トラス(ピン結合、下路)
橋長/ 132.97m 径間/ 66.00m(2 連)