SAGA 15
三千石堰・草堰・野越
佐賀県神埼市城原 城原川
両岸で共同で石を組み直す
伝統的地域共同体残る城原川
自然を利用した治水・利水と
伝統的工法の維持
筑後川支流の神埼市城原地区の城原川は、1600年代から堰や堤防などの水利施設が、地域の状況に合ったように工夫・整備され、自然を利用した治水、利水のしくみが今でも残っている全国でも大変貴重な川で、現在でも川の両側の地域が共同して毎年堰の石を積み直すなど、伝統的工法の維持と伝統的地域共同体の存続が図られています。
石井樋との共通点がある三千石堰
三千石堰は、城原川以西(右岸側)への水量不足を補うための石堰で、横落水路(約6km)より佐賀平野への灌漑用水を供給しています。
この堰は、下流の取水を妨げず、上流の井手溝に堰のバックが影響を与えないように、三箇所の水迦し(みずのがし)を設け、下流へ漏水するようになっています。また、上流部には、洪水から三千石堰を守るための野越し(二重堤)を造り、洪水を氾濫させて水勢を弱めるなどの水利工法が用いられています。さらに、この取り入れ口における施設の構造は、嘉瀬川の石井樋とよく似ている部分があり、三千石堰で堰上げられた水は、象の鼻、天狗の鼻の間を通り、井樋から横落水路を流れていきますが、洪水時には井樋での流量調整などの仕掛けが設けられています。
現在も毎年5月上旬に石の積み上げ作業が行われていますが、左岸側へも水供給は必要なため、左岸側地区からの見張り役がついています。
日出来橋上流の草堰
洪水時には壊れるやわらかな堰
草堰は、棒杭に柳、竹や芝、雑草などの粗朶や藁などを絡ませた堰で、下流への水量を保つとともに田んぼに水を供給しています。平水時にはマサ土が溜まりにくく、洪水時には簡単に壊れる構造となっています。現在でも地区ごとに草堰を管理していて、流されると地区の人たちがつくり直しています。
神埼市鶴西地区の野越し
野越しは、堤防の一部を低くし、洪水を下流に集中させずに田畑へ逃がすしくみです。
野越しの裏側10mくらいのところには50cm ほどの高さの「受堤」と水防林(竹林)が設けられ、越流した水は「受堤」で止められて上流側に流れ、やがてクリークや川に落ち込むという仕掛になっています。また、鶴西集落には城原川から引いた小川が巡らされており、各戸に設けられた汲水場で洗い物などに利用されています。
DATA
所在地/神埼市城原 城原川
完成年/ 1600年代
設計者/成富兵庫茂安
施工者/鍋島藩
管理者/水利組合
<施設の形式・諸元>
堤防、堰
延長/約20 ~ 30m